人間が紙を食べるのを観測したい

人間が紙を食べているフィクションについて紹介するブログ

わたしにとって修士課程とは何だったのか

この記事を書くきっかけ

  • 修了からn年経って落ち着いてきた
  • フォロワーに大学生が多少いる
  • もちろん社会人から修士に行きたいひとも応援している(これが参考になるとはわかりませんが……)

おことわり

  • 身バレを防ぐため若干フェイクが入っています(でも万が一同期が読んでいたら特定できるとは思う)
  • 大学院はいろいろなところがあるのでこれが参考になるとは限らない
  • 重要:修士課程の時期は諸般の事情でメンタルが終了していたためよく覚えていないところもある

基礎情報

  • 分野:言語学
  • 英語がものすごくできるというわけではない
  • 私立大学→国立大学大学院

どうして修士課程に行こうと思ったのか

  • 卒論がめちゃくちゃ不完全燃焼だった

今思えば卒論でももっとできたんだけど卒論やってる時期にそれに気づけなかったよね

  • 言語学がめちゃくちゃ楽しいと思っていた

今も楽しいとは思っている

  • 学部(大学院とは別の大学)で給付型奨学金をもらえたのでその分を修士の学費に回すことができた

学部でも貸与型奨学金を借りていたので返済が修士で増えると流石に厳しいという予感はあった。

修士課程ではそれ+バイトでどうにかしのいでいた。

どうして他大の院に行ったのか

  • 図書館などの設備が充実していた
  • 学際的なところをやりたかったのでちょうどいい院が見つかった
  • 学部の大学の院はわりと特殊なところだった

万が一高校生でこれを読んでいてこの大学の大学院に行きたいっていうのがもう決まっていたらそこに行くのがいいが……

ちなみにわたしが入ったところの他大からの院試倍率は7倍、同じ大学だと1.5倍くらい。だいたい同じ大学:2割、他大から:4割、海外からの留学生:4割くらいの割合のところだった。あと大学院によっては同じ大学からの進学者が9割くらいでもう派閥ができてることもあるとは聞く。

院試の準備

英語2時間、第二外国語1時間、専門科目3時間でした(時間は大学によって異なるとは思うが文系だとだいたいこのセットなんじゃないかな)

英語

論文の和訳だったのでとにかく長文の訳をこなした。卒論を英語で書いたのでそのときが一番英語ができていた説がある。

第二外国語

大学が第二外国語必修ではなかったので独学でフランス語をやっていた。

早めに受験を決めてたら第二外国語をちゃんとやっていたものを……とは思うが、かなり単位が重たかったので結局独学していたかもしれない。

英語よりは短いが論文和訳だったので最低限の活用と文法を叩き込みながら例文の暗記ととそれをちょっと変えた作文を毎日やっていた。

単語は仏検準一級くらいまでやった。今はすべて忘れた。

専門科目

過去問から傾向を推測して実際に解いてはみたが……ひとりでやってると合ってるかわからんからな……

小問集合と論述という極めてオーソドックスな構成だった。

小問集合は知識が問われるので言語学概論でやったテキストを見返したりしていた

論述はとにかく型を身に着けるのが大事だとは思う

日頃のレポート真面目に書いてればどうにかなるんじゃないかな

ちなみに受験当日はあまりにもできなさすぎて途中で帰ろうかなとすら思ったが「トニー・スタークがここであきらめるか?」と考えて最後までやったのであきらめないで全部答案埋めるのが大事……

修士に行ってよかったこと

さまざまな分野ですごいひとに出会えた

先生たちはもちろんのこと、他国から留学してきているひともたくさんいる院だったため、そういうひとたちは総じてモチベーションが高く、刺激になった。

自分が知っていることはごくわずかであることを知った

そして何かを新しく知ることはとても困難であることを知った。簡単そうに見えることでもやってみるとそうではないし、やることが大事だということを学んだ。

わかりやすいテキストの書き方を学ぶことができた

特に、大学生向けに論文の書き方を教えるチューターのTAが役に立った。ひとのテキストをブラッシュアップする中で自分のテキストの至らなさに気付くことができた。

これやっておけばよかったなと思うこと

もっとたくさん勉強したかった

メンタルの調子がものすごく悪かったというのはあるけれども外部の勉強会とかもっと参加できたと思う。本を読む時間もあったはずだ。データはけっこう集められたけど修論に活かせたところは……少ない……

修論でやりたかったことの3割もできなかった

提出2週間前に1週間発熱で寝込んだりしていた。まあもっと計画的に執筆をやれよっていうはなしなんですけれども……せっかくフランス語に入門したんだからフランス語のデータももっと使いたかったですね。

人脈を作っておきたかった

学部で人間関係が大変なことになってしまったため、院ではあまりひとと関わらないようにしていたのだが、適切な距離感を保ってひととなかよくしておきたかったです。

どうして博士課程に進まなかったのか

指導教員の働き方を見ていて、将来的にこれをやったら死ぬと思った

指導教員のみならず、関わりのあった先生方はみなめちゃくちゃ多忙で、秘書をつけているひともいた。それでも大変そうだった。すさまじくタフかつ能力がないとどうにもならないんだということがわかった。

単純に貯金が尽きた

お金は後からどうにでもなるから博士課程に行っておけばよかったと思うことがなくもなかったが、今学部の奨学金返済もまあまあ大変なのに、それに上積みされると思うと……となる

就活

  • 文系修士の就活は大変だとは聞いていたが比較対象がいないためわからない
  • まあ会社選び間違えてすぐ適応障害からの休職になりましたが……
  • それから退職してフリーランスになりましたが……
  • フリーランスをやるときにも修士卒は役に立ちました(分野によるとは思うが)
  • それなりのまとまったテキスト=論文が書けるというのは武器になります
  • 何より武器になったのはTOEIC855点ではあったが
  • 今は別の会社で働いています

結論として

「自分にはやれることがたくさんある」と「自分のやれることには限界がある」の二方面を知ることができる有意義な体験だったと思っている。研究自体は好きだったのでいつか博士課程に行きたい気持ちはある。修論の口頭試問で「おもしろかったです」って言われたの、うれしかったな。

 

 

ジャグラスジャグラーイメージ香水をセレスセレクトで選んでもらう

推し香水をオーダーしてみたよ

今、さまざまな推し概念アイテムがありますよね。アクセサリー、カクテル、シーシャなどなど。その中でも今回チャレンジしたのは推し香水です。

www.celes-perfume.com

こちらのセレスセレクトというサービスでジャグラスジャグラーの香水を選んでもらいました。
字数無制限で説明文を書いて、それを元に5本スタイリストの方が選んでくれて、小分けを送ってくれるシステムです。

このサービスは自分の好きな香水を選んでもらうためのサービスなんですが、公式の方でも「推し香水」を探すのに使えるとあります。
説明文には性格、イメージ、持ち物とか書きました。
ちなみに話題となった映画香水もここのサービスです。
映画香水のときに、「選んだ理由を教えてくれたらうれしかった」みたいなコメントを散見したんですが、セレスセレクトではちょっとしたコメントを添えてくれます。
わたしの場合は、
「絶望と悲しみを抱え自己破壊的になった有能な剣士であったジャグラスジャグラー。根底に深い情愛を持った勇敢な人物が纏うスマートで逞しさを感じるフレグランスをお選びいたしました」
とのこと。
「根底に深い情愛を持った勇敢な人物」という文字列を見ただけでこのサービスを利用してよかったなと思いました。
選んでもらった香水も本人が付けてそう!とか概念!とかいろいろあってたのしかったです。

カフェローズ/トム・フォード、ブルー ドゥ シャネル/シャネル、コローニアエッセンザ/アクアディパルマファーレンハイト/ディオール、ウォーターリフレクション/トバリを選んでいただきました。

以下主観的なレビューです。そんなに香水には詳しくないので的外れなことを言っているかもしれない。

カフェローズ/トム・フォード

一瞬鼻に抜けるバニラみたいな甘さの後に華やかなローズがいる。
しばらくすると遠くに煙たいカフェが見えてくる。
コンセプトは「あなたを滅ぼしてしまうほどスリリングで美しい暗闇」らしい。ジャグラーじゃん…
この香りがするひととすれ違ったら多分振り返っちゃうと思う。
そして振り返っても誰もいない、みたいな。
肌に乗せたら、ラストノートでバラを持ったジャグラーが立ち去った後のカフェの香りになった。深煎りのコーヒーがそこにある。
個人的にはジャグラスジャグラー総体のイメージに近い。
本人が付けているとすればオーブ本編で主に着ていたあのスーツ姿の時かな。いやこの香りのするジャグラー破壊力が高いな。バラの香りがする闇の紳士、無理では?

 

www.celes-perfume.com


ブルー ドゥ シャネル/シャネル

レモンとシトラス!!初夏の陽光みたいなさわやかさの中に大人の落ち着きがある。
いわゆるメンズの香水のパブリックイメージに近い。
かっちりしたシャツにこれつけてると絶対にかっこいい。
ヘビクラ隊長が付けてそう。大人の男性が付けていて違和感も嫌味もない香り。
木村拓哉さんが使っているらしく、「地球のこのくらいの年齢のかっこいい男性ってこんな香りつけるのかな」ってサーチした結果がこれだったらかわいい。
いや隊長がこれ付けてたら過積載だが?ただでさえ高い好感度がさらに上がってしまうが?

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コローニアエッセンザ/アクアディパルマ

ベルガモットとハーブの香りだ!プチグレンかな?
初夏の明るい草むらの中みたいな香り。
一口に爽やかというにはちょっとだけ複雑というか裏がある。
野生というにはとげがないけど人工物ではまったくない。自然というのが一番近い。
オフのジャグラーが付けてそうなイメージ。ちょっとおしゃれなランチに行くときとか。そんなことがあるかはわからないがそういうシチュエーション…

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ファーレンハイト/ディオール

トップはキュウリみたいな青さがぱっと出てきてその後にベルガモット。とにかく青い。
はるか彼方にウッディノートもある。
ボトルが炎みたい。
「独自の存在であることを主張して裏切らぬ香りを放つフレグランス」らしい。ジャグラーじゃん。さっきからそれしか言ってないな。
最初はオリサガの時期っぽいかな。その後落ち着いてくるところも含めてジャグラーの人生ではある。フレッシュさと大人びた感じがどっちもある不思議な香り。
魔人態からこの香りがしたらいいな。どことなく宇宙の温度も感じるし。

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ウォーターリフレクション/トバリ

上品でなめらかなライムとベルガモット。ラムネみたいなパチパチ感もちょっとある。
とにかく静かで落ち着きがある。肌に乗せるとだんだんと花々が開いてゆく。
<華麗に秘める孤独>がモチーフらしい。けれどもとっつきにくくはない。
決して閉じられてはいないが、遠くにあるもの、のイメージ。
わかるようでわからない、単純な理解を拒絶するもの。
カフェローズが「動」のジャグラーだとしたらウォーターリフレクションはふとした時に垣間見える「静」のジャグラー
相容れない要素を併せ持ちつつ崩壊せずそこにあるバランス。
さまざまな過去を内包しつつこれからも歩み続けるだろうZ後のジャグラーを感じた。

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自分で説明文を書くことになるので、みなさんがジャグラーでオーダーしても多分別の香水が来るんじゃないでしょうか。キャラ概念錬成にも、自分用にも、ぜひ!

ゼットの言葉はウルトラ難しいぜ―完結編―

 

はじめに:ご唱和ください、我の名を

「ご唱和ください、我の名を」という、意味はわかるけれどもなんとなく日本語として不自然なキャッチフレーズ/変身コールからウルトラマンZに興味をもったひとも多いだろう。かくいうわたしもそのひとりで、キャッチーなウルトラマンZ一話に引き込まれて五話のヘビクラ隊長からオーブを見始めるという典型的なパターンを経て、あれよあれよとニュージェネレーションズウルトラマンの視聴を始めてしまい、なぜかメビウスまで見た(おもしろかったし大好き)
今は最終回を見た直後によかったな……ウルトラマンZ……二期どころか三期やっても構わないんだよ……あと映画ないの?みたいな気持ちでこの文章を書いています。
九月にはそれまでに放送されていたいくつかの話数からゼットの台詞を取り出し、「Zの言葉はウルトラ難しいぜ」としてまとめた。その際は、台詞数も少なかったことがあり十分なまとめができなかったので、今回は最終回までの全台詞を収集し、ある一定のパターンがないのかと分析を行ってみた。
その結果、ゼットは「説明」をする際はいわゆる「普通の日本語」を話していることが多いが、「命令」「依頼」などをするときには日本語が妙になる傾向があることがわかった。
ここでは、「ゼットの日本語が不自然さとは何か」「ゼットの口調からみられるキャラクター像とは」について考察してみたい。また、「もしかしたら光の国には〈地球の言葉〉があるんじゃないか?」という与太話もやってみよう。

前提

この記事では基本的に、ゼット世界、及び日本で放送されていたウルトラマンシリーズの世界では日本語が話されており、ゼットは日本語を話していたと仮定する。
また、光の国ウルトラマンたちは地球人類に類似した文法を持つ音声言語を話しているということにする。宇宙人同士ではテレパシーで会話している描写もあったが、口のようなパーツも見受けられるし、音声による会話をしている可能性は十分にあるのではないだろうか。
なぜなら、これから書くのは日本語を含む人間の言語に対する研究をつまみ食いしてそれっぽく使用したテキストだからである。テッド・チャンあなたの人生の物語」よろしく、宇宙人の言語そのもも言語学でどうにかなる可能性はあるが、残念ながらウルトラマンZから「純粋な宇宙人の言葉」を読み取ることはできない。あの「ジャッ!」みたいなやつもどうにかすれば解読できるのかな……
あれだけ進化した宇宙人ならば音声や手話などといったシンボルを使用した言語、どころか人間に類似した言語など使っていないのでは?もっと効率のいいコミュニケーション手段があるのでは?と思った向きは小林泰三『AΩ』を読んでいただきたい――がZ最終回を見たらまた別の意味に取られてしまうような気がする。でも読んで。

また、ゼットの日本語の妙さに関しては、自分が妙だなと思ったものについて判定する。内容的におかしいものよりも、文法、用法、文脈的におかしいものについてカウントした。
人によって異なる判断基準があると思うので、違うと思ったらみんなも自分でやってみてください。
わたしが喜びます。

 

ゼットの日本語の「不自然さ」とは

ここでは、ゼットの「不自然な」日本語について、それがいつ、どうして起こっているのかについて、発話の機能と「マニュアル敬語」から考える。
ウルトラマンZ本編25話すべての台詞(一話以外の「ご唱和ください、我の名を」、技名を除く)をカウントしたら268であり、そのうち、「ウルトラ〇〇」を含む、妙な日本語を話しているのは59で、全体の約22%にあたる。*1
このうち、ゼットの特徴的な強調フレーズである「ウルトラ」を、ここで多く取り上げることはしない。*2ひとつ指摘することがあるのなら、これは「とても」や「すごく」といった、日本語の強調表現と完全に互換性があるというわけではないということだ。

ほう、ウルトラ勘がいいな!(1)
ウルトラ緊急事態だ、お前の身体を借りるぞ。(7)*3

前者は「とても」と交換しても違和感がないが、後者は「とても」というよりはむしろ「すごい」や「かなりの」という意味合いに近い。
ゼットの「ウルトラ」は、語やフレーズを強調する、幅広い意味を持ったことばだといえるだろう。

(1)説明はできるゼットくん

まずは、ゼットが普通のことばで話している例を紹介しよう。常になんだか不思議な言葉遣いをしているわけではなく、案外普通に喋れることも多い。ゼットの台詞を、その発言が持っている機能に着目し、「説明」「命令」「勧誘」「依頼」などに分類した。その結果、ゼットは多くの場合、「説明」はできるということがわかった。

今宇宙のあちこちで、デビルスプリンターって呼ばれる邪悪な因子を呑み込んだ怪獣が、凶暴化して暴れまわる事件が続いている。
先輩たちの力が込められたウルトラメダルは、その対応策として開発されたんだが、こないだの宇宙怪獣、ゲネガーグが突然光の国を襲撃してきて、メダルやそれを使うためのアイテムを丸呑みして逃げ出したんだ。
オレは、師匠のウルトラマンゼロと一緒に追いかけたんだが、師匠は、四次元空間に飲み込まれちまって。
オレが一人でヤツを追って、この地球まで来たってわけ。(2)

なんとこんな長台詞でもまったく普通の日本語を話すことができている。わかりやすさという、作劇上の都合といってしまえばそれまでかもしれないが、ゼットは「説明」が比較的得意なのである。
また、ゼットの日本語が妙だといっても、情報の出し方の順番がおかしいとか、教科書的な文法の誤りはないことにも注目したい。ゼットが起こすのは単文の中の意味的なミスが多いのだ。

 

(2)命令はできないゼットくん

次に、どのような場面でゼットの日本語が妙になるのかを考えてみよう。ゼットは、命令、依頼、勧誘などといった場面で日本語が妙になることが多い。

ハルキ、先輩たちの変幻自在の神秘の光をお借りするんだ!(8)(命令)
お頼み申し上げます。(1)(依頼)
ハルキ、パネエのいっちゃいますぞ!(19)(勧誘)

このような発話は、一見してこの文だけでどこかがおかしいということがわかるだろう。次に、どうしてこれらの発話におかしさがあるのかについて考えてみたい。

 

(3)マニュアル敬語とゼットくん

「ゼットのことばってコンビニ敬語っぽい」「エキサイト翻訳」という感想が、特に初期にはままみられた。質問や命令になると妙な発話になってしまうゼットのことばの「おかしさ」はどこにあるのだろうか。
上の例にもあてはまるが、命令や勧誘の表現では、敬意表現が用いられることが多く、そのミスが、ゼットのことばの「おかしさ」につながっている例がいくつかある。
例えば、ゼットの敬語のミスは、このような文に見受けられる。

この野郎(=ベリアロク)、速やかに抜けやがりなさいよ!(15)(命令)
ホロボロスがお休みになります!(16)

直すなら前者は「さっさと抜けろ」後者は「眠られます」あたりが妥当だろうか。前者の場合、通例経緯を向けない相手(抜けないベリアロク)に対して敬語を使おうとしているため、後者は敬語の構築のミスによっておもしろい表現になっている。
文化庁が「マニュアル敬語」と呼んでいる概念がある。「コンビニ敬語」などとも呼ばれるそれは、新入社員等の研修に用いられる、マニュアル化され、形式化された敬語のことだ。それを用いていると、どのような相手であれ画一的な敬意表現を使うこととなり、上記のような「妙な」表現になってしまう。「お分かりにくい」、「お読みやすい」などがマニュアル敬語の例として挙げられているが、ゼットが使いそうな表現ではないだろうか?
また、マニュアル敬語についてはこのような指摘もある。


マニュアルというもの自体が,敬語にまだ習熟していない人,特に,その職場に特有の言語場面での敬語にまだ不慣れな人のためには有効なものであるということも指摘したいと思います。敬語の使い方には,相手や場に応じた幾つかの典型例や型があり,職場などごとに用意されるマニュアルは,そうした典型例や型を示すことによって,まだ習熟していない人への手引として有効なものとなり得ます。

https://www.bunka.go.jp/seisaku/kokugo_nihongo/kokugo_shisaku/keigo/chapter5/detail.html
ゼットはマニュアル敬語を用いることによって、どうにかして地球の言葉でのコミュニケーションをろうとしているのかもしれない。

余談ではあるが、文化庁のサイトではゼットがいかにもやりそうな敬語の「ミス」がたくさん紹介されているので、興味があったらぜひ見てみてほしい。

 

(4)敬語を混ぜるゼットくん

ゼットのことばはマニュアル敬語的だという指摘をしたが、マニュアルすらも使えていない面がある。
以下の例では、一文目は丁寧な表現なのに、それ以降いきなり常体になっている。

さあ、そのウルトラゼットライザーのトリガーを押します。
その中に入れ。
そのウルトラアクセスカードをゼットライザーにセットだ。(1)

常体と敬体は混ぜないというのが敬語における基本的なルールのひとつだ。一文だけで見ると、「そのウルトラアクセスカードをゼットライザーにセットだ」は特に問題のない発話だが、流れで見てみると違和感がある。このように、ゼットは一文なら普通だけれども、会話の流れでは奇妙になってしまうことがあるのだ。

 

おまけ:ゼットくんは地球の言葉がうまくなってきている

実は、ゼットは地球の言葉が上達してきている、1-8/9-16/17-25と全体を分割して、ゼットくんの不思議な言葉遣いの割合を調べると、それぞれ32%、27%、17%となる。後半に行くにしたがって、ゼットは「普通のことば」を話すようになっているのだ。
ちなみに1,2話でのゼットの台詞数は61であり、全体の4分の1弱である。序盤で妙な日本語というフックを使いキャラ立てをしておくのが大事というのがここからもわかるだろう。

 

ゼットの口調からみられるキャラクター像とは

ここでは、「役割語」「属性表現」という概念を補助線にして、ゼットの口調が示しているキャラクター像について考えていきたい。

 

(1)役割語

役割語とは、「ある特定の言葉遣いを聞くと特定の人物像が浮かぶ、あるいはその逆に、特定の人物像から特定の言葉遣いが想起されるようなもの」であり、例として、〈博士〉キャラクタの語尾、「~じゃ」、〈猫〉キャラクタの「~にゃ」などが挙げられる。
役割語は必ずしも現実の人間が使う言葉遣いと一致しているわけではなく、むしろ現実とはかけ離れたものが「キャラ付け」のためにフィクションや翻訳で使われることが多い。*4

 

(2)これまでのウルトラマン役割語


ウルトラマン役割語についての先行研究として秋月高太郎「ウルトラマン言語学」「続・ウルトラマン言語学」がある。ここでは、昭和ウルトラマン役割語は〈神様〉、ウルトラマンゼロ役割語は〈ヤンキー〉であると分析されている。
〈神様〉キャラクタである昭和ウルトラマンたちは、は一人称「わたし」を用い、他人(地球人)への呼びかけとして「君/お前」を使う。(ウルトラマン同士の会話では名前で呼び合うことが多い)
この論文では、昭和ウルトラマンたちが〈神様〉の役割語を用いる理由として、ウルトラマンたちが「未知の存在」であり、「神」に等しいからであると考察されている。また、ウルトラ兄弟の設定が導入されたことによって、「兄弟」同士は「人間」的な言葉遣いの会話をするようになり、ウルトラマンたちの神性が下がったのではないかという指摘もされている。

一方、ウルトラマンゼロは〈ヤンキー〉的な言葉遣いをしていると考えられている。〈ヤンキー〉は一人称「おれ」、他人への呼びかけは「お前」であり、終助詞「ぜ」、断定の「だ」を多用するなど、〈女ことば〉を排除した〈男ことば〉の下位分類である。
これによって、ゼロは従来のウルトラマンたちよりも「若く」「不良少年的」なキャラクター付けがなされることとなった。
しかし、ゼットの言葉遣いはそのどちらとも大きく異なっている。確かに、ゼットは「ぜ」という語尾を使うが、他人への呼びかけは基本的に「名前」であり(ハルキとしかほぼ会話をしていないということもあるが、名前を呼ぶことがものすごく多い)断定の「だ」はあまり使わない。
〈ヤンキー〉というよりはむしろ〈舎弟〉的な言葉遣いにも見える(もしそのような役割語があるのであれば)が、たまにどことなく超越的な口調でも話す。

地球人が自力で怪獣を倒せるようになるのは、いいと思うぜ。それはこの星の人類が決めることだ。(21)

ゼットのことばは役割語だけでは捉えられないのではないだろうか?ということで、属性表現という考え方についても検討してみよう。

 

(3)属性表現とは

属性表現とは、フィクション内でのキャラクター立てとして用いられる口調のことで、例としてはいわゆる「ツンデレ」口調などがある。役割語との違いとしては、実際に存在する人物像との結びつきがなく、あくまでもフィクション内での表現効果であるということと、口調が表現するのは性格の全体ではなく部分であると考えられている。
ゼットのことばはどちらかというと役割語よりも属性表現なのではないだろうか?しかし、これまでのウルトラマンたちの役割語も、ゼットのキャラクター像読解には使用されているのではないだろうか?という視点で考えてみたい。

 

(4)「ゼットの言葉」とキャラクター像

以下の表現は、一見したら特におかしくはない。ただ、「ウルトラマンゼット」の発話だと思うととたんに「おかしな」ものになる。それは一体なぜだろうか?

あの子からメダルをもらおう!(3)
ハルキ、ウルトラフュージョンだよ!(15)

想像してみてほしいのだが、これらの台詞がもしも「妖精」や「かわいいマスコット」のようなキャラクタから発せられていたらどうだろうか?それなら、問題なく普通の台詞として受け取られるのではないだろうか。
つまり、これらの台詞は「ゼットのこれまでのイメージ」を覆す印象の発話だから「おかしい」のだ。これまで見てきたように、ゼットのことばは〈神様〉でも〈ヤンキー〉でもない。
ゼットのことばは、どちらかというと「男性的」ではあるが、完全に「女性性」を排除したわけでもない。それらが以上の発話に現れてきているのではないだろうか。このふたつの例は、比較的「女性的」もしくは「子供」の発話に近いように思われる。
ゼットは、「~だぜ」や「だ」といった、(これまでのウルトラマンに期待されていたような)断定的、男性的な表現を多く使用すると思いきや、こういった表現も用いることによって、ある種の「多面性」を表現しているのではないだろうか。そしてそれが、「正義感はあるが表現型がちょっと軽薄」のような、本編で示されているゼットの多様な性格の一部を構成しているのではないだろうか。

また、ゼットはハルキのことを基本的には「ハルキ」と名前で呼ぶ。これは、ハルキと対等に接していることを示し、昭和ウルトラマンやゼロとは違った特徴であるといえるだろう。
そして、これはゼットのことば全体が、現実に存在する人間のキャラクタに根ざしたものであるとはいえないので「役割語」というわけではなく、どちらかというと「属性表現」に近い。
かといって、既存のフィクションキャラクタの枠組みにゼットのようなものはいないように思われる。日本語が妙だからといって「片言の外国人」みたいなステレオタイプなキャラ付けをしなかったところが、個人的には好感の持てるポイントだ。

 

どうしてゼットくんは不思議な日本語を話すのか

ここまで、ゼットの言葉や、そのキャラクター付けについて考えてきたが、そもそも、どうしてゼットはあのような言葉遣いをするのだろうか。
もしかしたら、ゼットの言葉の不思議さは光の国で使われている言語(以後光の国語)からの母語干渉なのではないだろうか?
母語干渉とは、母語第一言語)の特性が、違う特性を持つ第二言語以降を習得する際に影響してしまうことである。たとえば、日本語母語話者が英語を学習しようとする際には、日本語ラ行と英語のr/lの発音は異なるにも関わらず、区別がつかないというのはよくあることだろう。また、文法的な面でも、かなりの上級者となってもtheとaと無冠詞、単数と複数の使い分けに困るということもある。
(なお、ゼットの母語は光の国語であると仮定する。光の国が多民族社会である可能性はあるが、今までの作品ではとりあえず言葉は通じているように思われる)

例えば、ゼットが敬語をうまく使うことができなかったり、一般的にひとりの人間が使う言葉遣いのレパートリーから外れた物言いをするのは、光の国には敬語がなかったり、多くの一人称や口調でキャラクターを示す習慣がないからなのではないかと推測できる。
(ウルトラ銀河伝説や、ギャラクシーファイト系列など、ウルトラマンたちが多数登場して会話する作品は多々あるが、そういった作品では光の国語が日本語に翻訳された状態でお送りされているのでこれまであまり気付くことはなかったのかもしれない)

英語という、日本で広く学ばれており、参考書がたくさんある言語であってもさまざまな困りごとがあるのだから、地球という辺境の惑星の一言語である日本語を学習している光の国の人々は相当な苦労をしていたのだろう。

まったく違和感のない日本語を話していたこれまでの光の国産ウルトラマンたちは、相当勉強していたに違いない。

与太話:バベルの超克、あるいは光の国の外国語学

ここでは、「ゼットが地球で話しているのは日本語である」という前提を崩して、ありうるひとつの可能性の話をしたい。
さて、この台詞に違和感を覚えなかっただろうか。

地球の言葉はウルトラ難しいぜ。(1)

まあそうだ。違和感しかない。Tシャツにもなるくらいインパクトのあるフレーズだ。
ここで考えてほしいのが、ゼットが学んでいるのが「日本語」であるのならば、このような言い方はあまりしないはずだということだ。なぜなら、その言語を学んで最初の方に知る単語が、その言語の名前と、それを話す人々の名前だからだ。日本語なら「日本語」、英語なら「English」、フランス語なら「Français」……きっと教科書の表紙にでも書いてあるはずだ。
ならばなぜ、ゼットは「地球の言葉」という言い方をしたのだろうか。日本語ではなくて。
それは、ゼットは光の国で「地球の言葉」を習ってきたからなのではないだろうか?
ゼットが地球の、日本にやってきたのは偶然でしかない。文字通り星の数ほどある星の、一地域の言語をすべて学習していたらとてもじゃないけどウルトラマンの寿命でも足りない。地球上の言語数は3000~5000といわれている。ウルトラマンたちが地球に目をかけているから、地球の言葉に着目しているというはまだわかるが、ピンポイントに日本語を習っている確率は低いだろう。
地球人みんなに通じる言語があればいいな……ということで、昭和からずっと地球に来続けているウルトラマンたちから言語データをもらってヒカリが(ヒカリは何でもできると思っている)どうにかして「地球の言葉」を生成したのではないのだろうか。
ゼットの習得した「地球の言葉」の精度が低いから不思議な感じになってしまっているだけで、ほんとうはタイガみたいに流暢に聞こえるのかもしれない。
もし全地球人に通じる謎の言語があるのなら、ゼットとハルキには光の国からその文法書を持って帰ってきてほしい。

まとめ:地球の言葉はウルトラ難しいぜ

主に言語学的な観点からゼットのことばについて色々と考えてみたが、データが少なかったため、脚本家ごとの違いなどについては触れることができなかった。これから映画などでもっとゼットくんが喋ってくれることに期待したい。
最後に、ゼットの日本語の発音は完璧であり、多少違和感があっても意味は通じていたことには着目したい。他の言語をそのレベルにまで持っていくにはかなりの練習が必要だ。
国際語となっている英語では、「ネイティブのようになる」のではなくて、「非ネイティブ同士でもコミュニケーションがとれる」ような英語を目指していったほうがいいというような動きもある。そういった観点では、ゼットの日本語はあれはあれでいいのではないだろうか。
少なくとも私の英語のレベルよりはゼットくんの日本語レベルのほうが高い。コミュニケーション取れてるよ!大丈夫!

 

参考文献
ウルトラマン言語学」秋月高太郎(2012)
「続・ウルトラマン言語学」秋月高太郎(2013)
母語干渉とうまくつきあおう』丹波牧代(2019)
「属性表現をめぐって」西田隆政(2010)
文化庁 敬語おもしろ相談室 https://www.bunka.go.jp/seisaku/kokugo_nihongo/kokugo_shisaku/keigo/index.html
文化庁「敬語の手引」https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/kokugo/hokoku/pdf/keigo_tosin.pdf
ECCフォリラン こんなにある世界の言語!?世界で最も使われている言語は?https://foreignlang.ecc.co.jp/know/k00010/

 

 

 

 

あなたの人生の物語

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AΩ 超空想科学怪奇譚 (角川ホラー文庫)

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*1:総集編ナレーションを除く。配信サービスの見逃しにあると思ったらなかったので…

*2:ゼットは、ボイスドラマでも「ウルトラ」を多用しており、これはゼットの日本語の問題というよりも、ゼット個人の持つ個性的な表現なのではないだろうか。

*3:以下、かっこ内は話数

*4:フィクションや翻訳で使われている役割語の功罪についてはこちらの記事が興味深い。
ハーマイオニーと女幹部 「女ことば」は男が作る【言語学者・中村桃子】https://noisie-s.net/gender/164/

作品一覧

自分用メモを兼ねた紙食描写がある作品一覧(未確認、うろ覚えのものあり)

 

NARUTO

・ドクターX(S2E4、S4E5,6)

溺れる犬は棒で叩け/汀こるもの

・レベル98少女の傾向と対策/汀こるもの

文学少女シリーズ/野村美月

・食書/小田雅久仁

・Marvel boy #2

・トウキョウエイリアンブラザーズ(E2)

ロングバケーション

薔薇の名前/ウンベルト・エーコ

・コント:不動産屋(ザ・ギース)

・うっちゃり宣言

ウレロ☆未確認少女

・神統記

家族ゲーム

聖☆おにいさん9巻

ソフトバンクCM SMAP「全身大画 MEN」篇

ウィキッド

・5年3組魔法組

牙狼 魔戒ノ花(2014/6)

・エレメンタリーホームズS2 Dead Clade Walking

・ST

・64最終回

ハンニバルS3

仮面ライダーオーズ/OOO

仮面ライダードライブてれびくんDVD

Andymori/City Lights PV

 

バーバラと心の巨人

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あらすじ:自分の殻に閉じこもり周囲から孤立する風変わりな少女・バーバラ。だが、彼女にはある使命があった。それはやがて襲来する巨人を倒すこと――。しかし、姉のカレンや先生、初めて友達になれた転校生のソフィアでさえも、すぐそこにまで迫る巨人の存在を信じず現実に向き合えと言うばかり。
そして遂に、巨人がバーバラの目の前に現れる。果たして巨人がもたらす試練とは――?(アマゾンより引用)

 

紙食描写:中盤でバーバラがメモ帳を食べる。飲み込むところまでそれなりの長尺で描いている。

 

入手方法:DVD、アマゾンプライムなど各種配信サービスで視聴可能。

竜の学校は山の上

九井諒子『竜の学校は山の上』所収「金食い虫くん」

 

竜の学校は山の上

竜の学校は山の上

 

 

2ページのあとがきマンガ。
お金を食べるひとが淡々とお金を食べている。
お札を食べて「あんまり味しないけど腹は膨れるし。食物繊維取れるし」としれっとしているのがよい。
なおお金を食べるので硬貨も食べる。
紙食というか金食日常系としておすすめ。

 

オール・ユー・ニード・イズ・キル(映画)

タイトル:オール・ユー・ニード・イズ・キル

 

あらすじ:エイリアン(敵対的な宇宙人)の侵略を受けている近未来の地球を舞台に、敵が人類に勝つために引き起こしている時間のループに巻き込まれてしまった主人公が、出撃しては戦死する2日間を何度も繰り返すうちに経験を積んで強くなり、ループの原因となっている敵を倒す方法を見つけ出して勝利を掴むまでを描く。(Wikipediaより引用)

 

紙食描写:主人公ウィリアム・ケイジが最初にJ分隊に配属された際、J分隊のメンバーはトランプで遊んでいた。上官がケイジとやってきたのに気付くと、J分隊のメンバーはトランプを口に入れる。

かなり冒頭付近の描写なので、見逃さないように注意。なお、ループものだが、このシーンはループしない。

また、この映画には原作小説が存在するが、小説には紙食描写はない。

 

入手方法:DVDが発売、レンタル中